コロナ禍で各サービスがオンライン化していく中で、”オンライン料理教室”が主婦の新しい味方として注目を浴びる時代になるのではないか。
そう思わせてくれるのが、会員数50万人の日本最大級のスキルのマーケット「ストアカ」人気ランキング全国1位(2020年8月現在)のオンライン料理教室だ。
教室を開催するのは、フードコーディネーターの糸原絵里香さん(25歳)。今年5月初旬にストアカを開始後、たったの2カヶ月で瞬く間に全国人気1位に昇りつめた。巣ごもり需要と手頃な価格、主婦の現実的な課題に寄り添うレッスンが人気を呼び、主婦同士の口コミで受講生を伸ばしている。
主婦が家庭で日常的に作りたい料理にとことん特化
一般的な料理教室で使う、特殊な食材や調味料は使わず、一般家庭が普段から持っているような食材や調味料をもとに料理教室のレシピを考えているという。
彼女の1回700円の料理教室「一緒にやれば1時間で5品できる作り置き講座」のレビュー評価欄には、従来型の料理教室とは一味違う切り口の「レビュー評価」が並ぶ。
- 「勝手に材料変えてもいい料理教室なんて初めて」
- 「下手なことを周りに見られなくていいから安心」
- 「全部一人で作れるから学びの効率が良い!」
- 「数日分の作り置きができるから、翌週の家事がラク!」
- 「スポーツジムに行ったみたいな達成感です」
オンライン料理教室をはじめた当初は、糸原さん自身も想定しなかったレビューが多かったと語る。
「この教室をはじめる前は『でかけなくていい』『家の調味料だけでできる』ことが喜ばれると思っていました。でも始めてみると、意外に『材料費が安い』『全部一人で作るから身につくのが良い』(※一般的な料理教室は分業制)「子どもも参加できる』などを喜ぶ声が多かったんです。」
サービス開始から3ヶ月ですでに800人近い人が受講(実際のストアカ講座ページ)
主婦の日常とことん寄り添うための7つの工夫
オンラインの手軽さゆえ、日常に溶け込むような料理教室にニーズがある事に気づいた糸原さん。家庭の日常にとことん寄り添う為にカリキュラムの改良を重ねてきたという。
実際に以下のような7つの工夫を取り入れている。
- 一般家庭の予算に合わせて受講料は1回700円、食材は2,000円程度になる献立。
- 「家庭でよく使う食材や調味料」「子供も好む味付けや食材」に特化した献立設計
- 食事タイムの1~2時間前に(オンライン料理教室を)開催するから、作ってすぐに家族で食べられる。
- 家族の食卓に一度に並べられる献立。(スープ2品、揚げ物2品などにしない)
- 各家庭にある最低限の道具だけで作るから繰り返し作りやすい。
- 手元を映すZoom画面もあるから、「切り方」「分量」などが目で分かる。
- レッスンの合間に「時短のコツ」「食材の保存方法」などの豆知識も提供。
主婦のニーズへ寄り添ったサービス設計をする中で、食材と調味料の分量だけは一切指定をしないで、参加する主婦への宿題にしているという。
糸原さんはその理由をこう語る。
「量に関しては自転車の補助輪と一緒で、ずっとレシピを参照し続けるのではなく、レシピなしで作った経験から徐々にセンスが磨かれます。その方が、いつかこの教室を卒業されたとしても一生使えるスキルとして残ると考えています。」
まな板などの手元を映すためのスマホと顔を映す為のノートPCが必要機材(糸原さん提供)
家事代行500件で主婦の現場のニーズを掴む
今年3月に大学院を卒業したばかりの糸原さん。2年前からシェアリングエコノミー型の家事代行サービス「タスカジ」などを通じて累計500回(対応した家庭の数は300件)の家事代行をしてきたという。
学生時代だった2年前からはじめた家事代行(本人提供)
共働き家庭の利用が多いタスカジでの経験が、家庭のリアルな状況を把握することにつながった。
「家事代行をはじめて、『子供が食べやすい食事』を主婦が求めていることを知りました。『子供に野菜を食べてもらうこと』が主婦の一番の悩みだということも、毎週の献立作りに繋がっています。」
他にも「何歳の子がどんな食べ物や大きさを好むのか」「一般家庭にある食材や調味料は何か」「一度に何品を作りたいのか」「家族みんなが好むレシピは何か」などの知識をタスカジで培ったことがオンライン料理教室に活きたという。
5人家族で、大量に作りたいニーズにも◎
5月初旬から実際にこのオンライン料理講座を、5人家族(夫婦と小3、小1、年中)全員で毎週リピート参加している森本さん一家。家族ぐるみで受講できるのも、自宅で受けられるオンラインならでは、だ。
主婦の森本さん曰く、共働きしながら5人家族分の食事を作る負荷が大きかったという。
「5人家族なので、大量に作りたいんです。でも、ママとパパだけは、時間が足りません。そこで、子供3人含めて5人で糸原先生の料理教室に参加しています。切るのが時間がかかるので、ママ以外は食材を切ること担当。いつもスポーツのようにみんなで切り始めています。」
実際のオンライン料理教室に家族で参加した時の様子。手前のノートPCでZoom接続(森本さん提供)
「ママは火を使う調理を担当。座卓で食材を切るのが、パパと子供たちという分担です。パパが子供の手元を見てくれています。」
主婦の森本さんは共働きで、「食育」に興味はあったが取り入れる余力がなかった。子供に料理を教えたかったが、結局、自分でやった方が早いため中々できずにいた。そんな中、このオンライン料理教室が救世主になったという。
「以前は、お惣菜を買うことが多かったのですが、現在は土日に1回参加すれば、3日分の料理が作れてしまいます。仕事のある月曜、火曜もすがすがしい気持ちで過ごせます。」
完璧でなくてもOKな雰囲気
主婦に寄り添ったレッスンで、ホスピタリティが完璧だと森本さんは語る。
「主婦たちが食材や調味料を『あれもない』『これもない』など毎回3人くらいがレッスン中に訊くのですが、糸原先生は代替案を、即レスで返してくれます。マヨネーズがない場合も、酢を混ぜたもので代用、しゃけを買い忘れても、鯖缶でOKなど。これは無理というのを聞いたことがない。すべて快く対応してくれるホスピタリティが凄いんです。」
参加者が多い時は50人。主婦がZoom上で3画面分も並ぶ。Zoomチャット欄での質問もOK(筆者撮影)
家族みんなで作ったものを食べられる幸せ
家族5人で90分で実際に作った料理5品(森本さん提供)
森本さん一家では家族5人の3日分の食事のために、Zoom開始後、食材を切るところから一心不乱にスピード良く作り始める。
レッスン後の完了報告のタイミングの様子(糸原さん提供)
講座後も、みんなができているのを20分間ほど確認してから、最後まで残ってZoomを切っているという糸原さん独特のホスピタリティも好評だ。
「子供も自分で作ったものを食べられますし、家族みんなでつくったものを食べられる幸せがあります。主婦の友人もみんなファンです本当に感謝しています。今後人気になって、申し込みにくくなるのだけが心配です。」
1回700円から値上げはしない
糸原さんの生徒数は現在月間300人(毎週参加のリピーター含む)。通常の料理教室に比べて随分安くは感じるが、料理教室を開く場所代や、全員分の材料費などがかからないことからも、最低限のコストで運営できているのも事実だ。人気からいくともっと価格をあげても生徒は集まりそうだが、それでも、1回700円の価格から値上げする気はないという。
「このレッスンを家庭のインフラにしていきたいという気持ちがあります。特別な日の為の料理ではなく、日常用の料理を学びたい人にきてほしい。毎週気軽に主婦が参加できる値段が大事なので、今後も1回700円の値段を上げる気はありません。」
料理教室もオンライン化をはじめた中で、既存の料理教室の型に一切はまらない形式を生み出した糸原さんのオンライン料理教室。ウィズコロナの時代における主婦の新しいライフスタイルや家族との新しい繋がり方を生み出している。